西郷南洲翁遺訓第十四条
会計出納は、制度の由つて立つ所、百般の事業皆是より生じ、経綸中の枢要なれば、慎まずばならぬ也。
其の大体を申さば、入るを量りて出づるを制するの外、更に他の術数無し。
一歳の入るを以て、百般の制限を定め、会計を総理する者、身を以て制を守り、定制を超過せしむ可からず。
否らずして、時勢に制せられ、制限を慢にし、出るを見て入るを計りなば、民の膏血を絞るの外有る間敷也。然らば仮令事業は、一旦進歩する如く見ゆるとも、国力疲弊して済救す可からず。
<訳>
会計出納(金の出し入れ)は、すべての制度の基本であって、あらゆる事業はこれによって成り立ち、秩序ある国家を創る上で最重要事であるから、慎重にしなければならない。
その方法を申すならば、収入の範囲内で、支出を押えるという以外に手段はない。
総ての収入の範囲で事業を制限して、会計の総責任者は一身をかけてこの制度を守り、定められた予算を超えててはならない。
そうでなくして時勢にまかせ、制限を緩かにして、支出を優先して考え、それに合わせ収入を計算すれば、結局国民から重税を徴収するほか方法はなくなるであろう。
もしそうなれば、たとえ事業は一時的に進むように見えても国力が疲弊して、ついには救い難い事になるであろう。
今の政治家、役人は、良く良く傾聴すべし。